宮本雄二著『習近平の中国』、なかなか興味深い本でございました。
普段から中国と接点を持ち、また中国の動向を注視している人たちにとっては既知の事柄も多くあるのでしょうが、すっかり中国ヲチから遠ざかっていしまっている私には興味深い点が多くございました。
- 習近平が権力の集中を目指しているわけ
- 習近平の軍内での人脈
- 薄熙来事件の背景
- 農村籍改革
あたりを特に面白く読ませてもらいました。
1.は文革の反省から権力の一極集中を嫌い「集団指導体制」に到達した中共が、このままでは急激に変化し続ける現状に対応しきれないなどとして「総書記の権力強化が必要」との空気、共通認識が党内に広がっているのではないか、これが習近平の権力集中を後押ししているのではないか、というお話。
この本と同時に塩野七生の『ローマ人の物語』も読んでいるのだけど、カエサルが共和制から帝政を目指したのは拡大する領土(国境線)を効率的に統治(防衛)するには共和制(集団指導体制)ではスピード不足と判断したからではないだろうかと。ただ性急に隠しもせずに帝政化(権力の集中化)を推し進めたカエサルは共和制派の反発を買い暗殺されてしまう。
ただ、暗殺を実行した共和制派には諸問題を効率的に解決するための制度ビジョンを持ち合わせていなかったことから共和制に戻ることなく早々に瓦解してしまう。
その後、アウグストゥスが共和制派との内乱に勝利し帝政を確立するのだけど、その統治は元老院(集団指導)をむやみに刺激することを避けつつ、しかし確実に権力の集中を進めた、という。
習近平はカエサルなのか、アウグストゥスなのか。
筆者である宮本氏は習近平をえらく高く評価しているようではあるのだけど、私自身は、どーも習近平はそこまでの人物とは思えなかったりするのですけど、集団指導体制の限界とそこから権力の再集中という空気があるのはないか、というお話は興味深かったです。
また、習近平が「○○小組」、「○○委員会」を乱立させ直接指導できる体制を構築しているというくだりでも、帝国をむちゃくちゃに引っ掻き回し暗殺されたカリグラ帝の後始末のために強権を発動しスピードを求め側近政治を推し進め、結果として元老院、ローマ市民の反発を買ったというクラウディウス帝のお話とかぶる。
いや、『ローマ人の物語』すごく面白いのですよ。
2.は、彼の父親・習仲勲の歴史を知ることができて興味深かったでございます。
特に習仲勲が「長征組」ではなく、長征の結果たどり着いた延安で兵員を補充した際の「地元組」であったという点。その頃の人脈が今に生きているのはないか、というお話。
3.薄熙来事件の背景の一つに「絶対権威(ケ小平)のいない初の権力移行による混乱」という見方が面白い。
三度『ローマ人の物語』の話になりますが、ローマ帝国も紀元69年に後継を争い1年間に3人皇帝が代わるという混乱期があった。その混乱の一因にネロの自死によって初代アウグストゥスの血脈が途絶え、つまり絶対権威が途絶えたということもあったのではないかというお話。それを収拾したヴァスパシアヌス帝は後継指名を厳格に法制化したという。
今後、中共でもそういうのがあったりするやもしれぬ。
4.は、ヲチをしていた当時にも興味を持っていて、ちょいと追いかけていた時期があったので、その後の動きが簡潔にまとめられていて今後の方向性が少し見えるようで興味深かったでございます。
なかなか興味深い本ではあったのですが「まとめ」の段を読み進めているうちに違和感が。「これ中国人へのメッセージじゃん」と。「バカなまねはしないでおくれよ」というような。無理やり「まとめ」なくてもよかったんじゃないかなー。
アメリカが築き上げてきた現在のブレトンウッズ体制の最大の受益者は中国自身であるので、この体制を破壊しアメリカを押しのけてとって代るようなことはないだろうと述べている。アジアインフラ投資銀行やシルクロード基金などと言い出しているのも「既存のメカニズムの修正ないし補足であって、破壊ではない
」ということらしい。
ヲチする前には思い至らなかったけどヲチをしばらく続けて思い至ったものの一つに、「中共独裁とは言うものの人民の”世論”を無視してまで好き勝手するパワーは既になく、なかなかどうして”世論”というやつに左右されているのだなー」という点。
”世論”に右往左往まではしていないけど、薄熙来のようにこれを煽る輩が出てくるとチト厄介。薄熙来のようにやりすぎると潰しやすいのだけど、うまく立ち回られるともう一つさらに厄介。
この辺りから「統治の正当性」が大変重要というお話に納得。
そしてここまで大きくなってしまうと振り回されるのは中共だけじゃなく周辺国にまで波及してくるのでより一層厄介。
posted by タソガレ at 22:14
|
Comment(0)
|
TrackBack(0)
|
所感
|

|