まずは6月21日付の『読売新聞』。
【北京=佐伯聡士】北朝鮮が3度目の核実験や新たな長距離弾道ミサイル発射準備の動きを見せていることを受けて、中国の有力紙「南方週末」は最近、「中国はすでに核大国と核小国に包囲されている」として、「核戦略を変更すべき時だ」との見出しを掲げた特集記事を掲載した。
背景には、北朝鮮に対抗して日米韓がミサイル防衛開発を加速することへの強い警戒感があるものとみられる。
同紙は、これまで「最小限核抑止力」とされてきた中国の核戦略について、中国自身が2006年の国防白書で「自衛防御」と定義したことを紹介。その上で、今年3月には、核専門家から新たに「有効防衛」という戦略方針が提起されたことを明らかにした。抑止力を一層効果的なものにするという方針とみられる。
戴旭・空軍大佐は同紙で、「中国には現在、ミサイル早期警戒衛星がない」として、他国の発射する大陸間弾道弾(ICBM)への早期警戒能力を強化するのが急務であると強調。
特に、米国主導のミサイル防衛について、「膨大な核兵器を保有するロシアに対しては効果が小さく、ICBMの保有数が少ない中国にとっては致命的だ」と懸念を表明した。
また、戦略ミサイル部隊の「第二砲兵」に近い関係筋は、「核兵器を絶えず充実させ、完全なものにする必要がある」と、抑止力強化を訴えた。
(2009年6月21日19時06分 読売新聞)
読売新聞「「核大国と小国に包囲されている」…中国紙が強い警戒感」
この「核戦略を変更すべき時だ」と題された『南方週末』の記事をば。
核政治
核が”兵器”として、人類史上で使用されたのはたった2回であるが、核は”政治”として日々、我々の利益に直接影響を及ぼしている。
朝鮮の核実験は、北東アジアに後戻りできない核軍備競争を引き起こすかもしれない。印パ核実験を思い返すと、我々はあることに気づく。中国は、”核大国”と”核小国”にすでに包囲されており、その包囲圏には合わせて2万2,500発あまりの核弾頭が存在している。
中国は、どのような核戦略を持つべきなのだろうか?これは喫緊の問題だ。国際社会は、既存の核の安全システムをどのように調節すれば、世界の核拡散の危機を制御することができるのだろうか?これも同じく喫緊の問題だ。
本紙はこのため、中国の核戦略と国際核安全システムの功罪とを全面的に検証してみた。
核兵器は、中国に大国としての権利をすでに獲得させたが、現在、これらが徐々に中国の国家利益の最大の脅威となってきている。「中国周辺には、世界最大で、最も密集している核包囲網が形成されている」と彭光謙少将は述べる。
この包囲網とは、およそ2万2,530発の核弾頭のことを意味している。特に、朝鮮半島に核の暗雲が、北東アジア全体の核軍備競争にすでに変化をもたらしている現状において、中国の戦略的安全は、眉睫の試練に直面している。
中国の核戦略は、どのように調整されるべきなのだろうか?中国の核戦術、またはどのような備えをすべきなのだろうか?
本紙記者・劉斌、北京発、研修生・蒋文潔
”限定報復”から”自衛防御”へ
中国の核戦略は、ここ数十年、多くの戦略研究機関と関連の専門家たちが、次々と20ほどの意見を述べてきた。
1984年5月、中国第二砲兵隊(以下略称”二砲”)が作戦担当任務を担うようになり、20世紀末まで一貫して、二砲の教科書には、核戦略については、”限定報復”と全て記されてきた。
二砲に近い人間が本紙記者に漏らしたところによると、このような表現は、ケ小平の一回の談話を総括し生まれたものであるという。「しかしながら”限定”という言葉は、中国が適度に核兵器の発展の規模をある程度制約し、”報復”という言葉も責任ある大国のイメージとは相容れないもので、このような表現は、歴史的な限界がある」と某氏は語った。
実際、どのように中国の核戦略を表現するかは、常に論争の種であった。ここ数十年、軍隊と地方の多くの戦略研究機関や専門家達は、20種類ほどの表現を出し、その中には9つのなかなかな物、例えば”限定威嚇”、”有効威嚇”などといった物があった。
しかし、これらの表現にも、多少の欠陥があった。例えば”自衛反撃”は、長年核問題を研究している某研究員の専門家・魏国安教授は、中印、中越戦争の両者は”自衛反撃戦”であったが、”核戦略が、局地的で、辺境的な通常の戦争であったそれと同等とするのなら、次元において欠陥がある”と考えている。数箇所が出してきた”威嚇”という言葉にいたっては、西側が理解する”威嚇”、更には実戦をも含み、これはある種、理解する上で偏向をもたらす可能性があると、魏国安は言う。
中国政府の文書で初めて”核戦略”という言葉に言及したのは、核兵器を保有してから42年後であった。『2006年中国国防』白書で、初めて中国の核戦略を”自衛防衛”と記したのだが、この文書でもどのように我が国の核を発展運用していくかについては触れていない。
この白書の起草の過程を知る人物が、南方週末の記者に漏らしたところによると、”自衛防衛”戦略の出所は、2005年10月、二砲司令員・靖志遠と米国国防長官ラムズフェルドの会見の際に、中国の核戦略思想を詳述した時だという。起草者は、この談話の精神を根拠として中国の核戦略をひねり出したという。
しかし、依然として違う意見を持つ専門家が数名いる。ある匿名の軍隊専門家は、本紙記者に対して「自衛と防御は、それ自体が意思であり、次元が違う」と語り、更に「この表現は、核兵力の運用の問題にのみ言及すべきもので、その建設計画に及ぶものではない」とし、戦略としていくつかの要素が欠けているという。
『2008年中国国防』白書では、”自衛防衛”が再び中国の核戦略として記されている。その文章は以下の通りだ。
「第二砲兵隊は、国家の核兵器を先制使用しないという政策を遵守し、自衛防御核戦略を貫徹し、中央軍事委員会の命令を厳格に執行し、国家が外来からの核攻撃を受けないよう保証することを基本的使命とする。第二砲兵所属のミサイル核兵器は、平時において如何なる国家をも狙うものではなく、国家が核の脅威を受けた際には、核ミサイル部隊は警戒レベルを上げ、核による反撃準備をしっかりと行い、敵が中国に対して核兵器を使用することを恐怖により止めさせ、国家が核攻撃を受けた際には、ミサイル核兵器を、単独、あるいは連合のその他の軍の核戦力を使用し、敵に対して断固とした反撃を実施する」
”先制により制する”アメリカ、ロシアの核戦略の最新の調整
”核兵器を先制使用しない”は中国の核政策の核心で、1964年に中国が始めて核実験を成功させた後にすぐに確立したものである。現在、中国は依然として世界で唯一、核兵器の先制使用を行わないことを承諾している国家である。「核戦略思想は、国家の核兵器の発展、核戦力の運行を決定するものである」と、核軍制御問題の専門家で清華大学教授・李彬は、本紙記者に語った。
半世紀近くの間、中国の核戦略は終始一貫していたとある程度言えるかも知れない。”核兵器を先制使用せず”とする中国の核政策の核心は、1964年に中国が始めて核実験を成功させてすぐに確立させたものだ。現在、中国は依然として核兵器を先制使用しないことを承諾している世界で唯一の国家である。「中国の核戦略は完全に防御性のものだ」と国防大学戦略専門家・孟祥青教授は、本紙記者に述べた。「核心は、不戦而屈人之兵だ」と魏国安も強調する。
しかし、中国と異なり、その他のいくつかの核大国は、その核戦略に対して持続的に調整を行っている。
過去20年あまりの間、7年ごとにクリスティは、アメリカの各方面の専門家を招集し、『核体性評価報告(Nuclear Posture Review)』を起草しており、アメリカの核戦略の重要な文書となっている。
魏国安教授の説明によると、アメリカの核戦略である”核実戦をも考慮した威嚇重視”、この原則をクリスティは”隠そうともしていない”という。実際、2002年版の報告の第一回は、冷戦後のアメリカが核攻撃を行う可能性のある対象となるのは、朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビア、中国、ロシアの7カ国であると明確にしている。2005年のアメリカ国防総省が完成させた『共同核作戦行動原則』は、大規模な殺傷性兵器を使用した敵国、あるいはテロ分子に対して米軍は”先んずれば人を制す”という核攻撃が可能であると規定している。「某国とアメリカとの間で通常の衝突が発生し、アメリカの空母が攻撃された場合、アメリカは核兵器による報復を行うだろうか?アメリカのやり方は、私ができる、できないと言っても、あなたは疑い、あえてアメリカの空母を攻撃しようとは思わないだろうが、相手はやりたい放題にあなたを攻撃できるということだ。これが核によるプレッシャーなのだ」と李彬教授は述べた。
同様に、プーチン治世の時期に、ロシアの核戦略もどんどんと進攻方向へ傾斜し、まず”核兵器の先制使用権を保留する”という条文を公布し、”先んずれば人を制す”的な核攻撃の原則を正式に提出した。
プーチンにとっては、核兵器は、ロシアが唯一アメリカと対抗できうるものなのだ。アメリカが率先した”先んずれば人を制す”れば、ロシアはこれに対応する計をもたなければならないのだ。
戦術は戦略を充実させるで共通認識に達している
”中国は核攻撃に耐ええる準備をすべきである”、”核攻撃を受けた後に核反撃を実施する十分な能力を有している”。
核の安全情勢について最も多くの変数に直面している核大国は、まさに中国なのだと述べることができるだろう。
変数のひとつとして、アメリカが世界中に配備しているミサイル防衛網がある。「戦略核ミサイルは発射直後の速度は非常に遅く、アメリカが西太平洋に配備しているミサイル迎撃システムによって非常に容易に阻止されるのはこのためだ」と軍事専門家・戴旭は説明する。「アメリカが配備しているミサイル迎撃システムは、数が膨大なロシアの核兵器に対処するには大きくないが、大陸間弾道ミサイルの数が多くない中国にとっては、致命的なものである」という。
更に大きな変数として、ここ最近の一連の核事件、印パの核競争から朝鮮の核実験は、全て中国周辺で発生している。特に朝鮮半島の安全局面は急激に悪化しており、北東アジアに大規模な核軍拡競争の到来が目の前にまで迫ってきている。「我が国の核兵力の発展と計画を常に充実させ改善し続けなければならない」と上述した二砲に近い人物は考えている。「軍隊の見地から述べると、核兵器と国家の核政策をどの時点で使用するかという2つの問題がある」とこの人物は本紙記者に率直に述べた。「核戦争となった場合、中距離ミサイルで反撃するか、遠距離ミサイルで反撃するかを考えていたら、間に合わないのは明らかだ」という。
本紙記者が理解したところによると、中国の軍事戦略の専門家達は、一端核戦争が発生すれば、中国の核兵力による具体的な戦法について、すでに多くの共通認識を得ているようだ。
米ロなどの国は、核兵器の性能を極限まで高めているが、1996年7月30日に中国が宣言した”核実験の一時停止”の後、中国の科学者達が実験室で模擬テストを行い、すでに設計され使用年限が過ぎたものでも引き続き効力が発揮できることを発見している。「実験によって、要求された設計、人々の期待をはるかに超えた品質に至り、研究者達は感激の涙を流したものだ」と関連の研究を行っていた一人の匿名の人物が本紙記者に語った。
しかし、軍事専門家・戴旭も「中国は、他国が発射した大陸間弾道ミサイルに対する警戒能力を性急に強化もしなければならない」とも注意を促す。米ロは共に、発射警戒能力を有しており、他国が核弾頭を発射すれば、ミサイルが飛行している数十分以内に迅速に反撃を食らわすのだ。「アメリカは長年、ミサイル警戒衛星を開発してきている」と戴旭は述べ、「しかしながら、中国は現在、ミサイル警戒衛星は持っていない」と語った。
中国の核戦略の議論に関して、最新のものは魏国安教授自らが述べたもので、今年の3月に彼が提出した”有効防衛”という概念だ。「中国は核攻撃を受ける受容力を持たねばならない」というものだ。国防大学教授・孟祥青は、本紙記者に対して「核攻撃を受けた後、核反撃を実施するのだ」と述べた。
南方週末「中国核戦略:当変則変」
『読売新聞』の記事は、意図的なのか、字数制限により削ぎ落とさざるを得なかったためか、記事の要約としては不十分ですね。
ミサイル防衛システムの必要性を説くと同時に、3月に新たな出された核戦略概念「有効防衛」のためには「核の先制使用の放棄」という化石のような核政策を見直す必要性をも、この記事は説いております。
また、この記事から伺えることは、北朝鮮の核兵器など屁とも思っていないということと、日米が推進しているミサイル防衛システムが戦略として有効であるということ、そして、北朝鮮の核実験がもたらした反応に対応するために軍部(第二砲兵隊)が金をせびっているといった姿などでしょうか。となると北朝鮮の背後には、「海軍ばっかデカイ顔しやがって」と妬んでいる輩が・・・・なんて妄想が刺激されます(w
このような反応を見ると、日本の核武装論は一見派手で日本国内におけるインパクトは大きいですが、対外的には敵基地攻撃論といった防衛的先制攻撃の是非論の方がより脅威で抑止という点で有効なのかも知れません。派手な核武装論の影でコソーリ議論を詰めることができるといいのですが。




