前回「麻生発言に対する中共政府の反応→春節中なので無反応」の最後に転載した朝日新聞の社説の中で「説明がつかない
」と一蹴されている「公的、私的の区別がない天皇は参拝できなくなった
」とする説の根拠を少し調べてみました。追記した毎日新聞の記事にあった、最後の参拝の前日、1975年(昭和50)11月20日の参議院内閣委員会でのやり取りを国会会議録検索システムで調べたものを抜粋して引用しておきます。
主要なやり取りだけを抜き出そうとしたのですが、うまく要点だけを切り抜くことができず非常に膨大になってしまいました。「天皇の行為には公私の区別が付きにくく、よって靖国神社参拝は、いわゆる政教分離を定めた憲法20条に抵触する可能性が高い」とのやり取りは、この日のクライマックスで行われたものです。そこへ行くまでの伏せんが午前中から始まっているので、最初から抜き出してみました。
膨大になったので3つに分けています。クライマックスは「その3」になります。
あっ、中国では天皇陛下が靖国参拝を停止されている理由は、「A級戦犯が合祀されたから」ということになっています。つまり、天皇陛下ですらA級戦犯合祀に反対しているという雰囲気を醸し出し、自身のA級戦犯批判論の補強に利用しています。今回の麻生発言を扱った記事などでも、公私の区別が付かず政教分離論が沸き起こり政治問題となることを考慮したなどという説は、これっぽっちも出てきません。
国会会議録検索システム「昭和50年11月20日参議院内閣委員会」
- 野田哲(参議院議員)
- それでは宮内庁に伺いたいと思うんです。天皇と内閣の機能との関係についてまず伺いたいと思うんです。 天皇の行為については、憲法第七条に定める国事行為、それと、憲法第一条に定めてある日本の象徴としての地位に基づく国事行為に準じた形での公的行為、それから、天皇の個人としての私的行為、この三つに区分されるというふうに理解をしていいのかどうか、この点をまず伺いたいと思います。
- 政府委員(宮内庁次長富田朝彦)
- ただいまお尋ねの憲法一条あるいは七条等の行為についての先生の御質問、これはきわめて法律的なことでございますので、本来ならば内閣法制局等からお答えを申し上げるのがしかるべきと存じまするが、私どもも、いまお話がありましたような三つの行為に天皇の御行動というのは分類される、かように承知をいたしております。
以下、しばらく天皇皇后両陛下がアメリカ訪問の際にアメリカで初めて記者会見を開き、その場で原爆投下についての質問に答えられたことに対して、陛下の返答は宮内庁、政府の指導の下に行われたのかなどというやり取りが行われている。政治的発言になるのではないかと詰め寄っています。
国会会議録検索システム「昭和50年11月20日参議院内閣委員会」
- 野田哲(参議院議員)
- 天皇の行為と内閣の機能との関係について具体的に伺いますけれども、明日十一月二十一日に天皇は靖国神社に参拝される予定である、こういうふうに伺ったわけであります。漏れ聞いたわけでありますけれども、このことは事実でありますか、どうですか、これをまず明確にしてもらいたいと思います。
- 政府委員(宮内庁次長富田朝彦)
- いまお尋ねの明二十一日に、天皇陛下は靖国神社並びに千鳥ケ淵戦没者墓苑に御参拝になられます。
- 野田哲
- いまお答えになった、あした天皇が靖国神社へ参拝される、それから千鳥ケ淵ですか、ここへ参拝される、この計画といいますか、予定といいますか、これはどこで立てられたわけですか。宮内庁ですか、総理府ですか、どこですか、この計画をつくったのは。
- 政府委員
- そういうお参りになられるということの計画をあれいたしましたのは宮内庁でございます。
- 野田哲
- 宮内庁。宮内庁でこのような計画を立てて、これは総理府なり政府の方へは合議をされたわけですか、いかがですか。
- 政府委員
- この御参拝の件につきましては、昭和四十年、ちょうど戦後二十年に当たりました際に、靖国神社からお参りを願いたい、こういう要請がございまして、それにおこたえになって御参拝になっておられますが、今回も本年の春早く靖国神社から、またこの春には千鳥ケ淵墓苑に関しまして厚生省からお参りを願いたい、こういうあれがございまして、しかしその後いろいろな行事等がございまして日程がなかなか相つぎませんので、まあ日程が、何と申しますか、全日程のうちでわりと差し繰りができるというような時期がこの秋でございましたので、そうした発議を一応検討いたしまして、陛下にも御内意を伺って取り運んだわけでございます。また同時に、この点につきましては、一般的にはこれは宮内庁で処理するようにお任せをいただいておる部面が多いのでございますけれども、一応総理府、内閣にもこの点は御連絡を申し上げてございます。
- 野田哲
- 十一月二十一日を選んだというのは何か特別の理由があるんですか、それとも単に天皇の日常の御日程の中で都合がよかった、こういうことだけなんですか、この点いかがですか。
- 政府委員
- 全くいまお仰せのとおり陛下の御日程のいろいろな勘案の結果でございまして、別に特段の意味のある日ではございません。
- 野田哲
- この明日の靖国、それから千鳥ケ淵、これに参拝されるということですが、この天皇の行為については、随行される方々はどういう方が随行されることになっておりますか、その点を伺いたいと思います。
- 政府委員
- この御参拝は、先ほど先生冒頭にお話しになられましたような行為の類型のうち、私的なお立場で御行動になる、つまり私的行為、そういう性格でございます。しかし、これは陛下がいろいろと私的に御行動になられるという場合でも、これは宮内庁法として側近事務というような責めを負っておりまするし、また陛下お一人でおいでになってというわけにもまいりませんので、したがいまして、侍従長以下関係の職員はこれにお供をしてまいります。
- 野田哲
- 宮内庁の関係の職員だけですか、それ以外にはないわけですか。
- 政府委員
- それ以外にということでいたしますれば、やはり陛下の御身辺の安全ということも常々考えなければなりませんので、これには皇宮警察のいわゆるボデーガードの責任者が一人ついてまいります。
- 野田哲
- 私が聞いておるところでは、千鳥ケ淵の墓苑には環境庁の長官が随行すると、こういうふうに聞いておるんですが、これはここに公害担当の藤田委員長見えておりますけれども、そういうふうに聞いておるわけです。そうするとあれですか、政府の方では小沢環境庁長官がその行程を随行するわけですか、それとも千鳥ケ淵だけなんですか。靖国神社の方は政府の関係者はだれもいない、こういうことなんですか。
- 政府委員
- 靖国神社につきましては、政府の関係者は、いま申し上げた側近のあれに当たる宮内庁職員のみでございます。千鳥ケ淵墓苑につきましては、これは所管が環境庁でございます。で、環境庁からどなたがおいでになるか私どもまだ連絡を受けておりませんが、いわゆる千鳥ケ淵墓苑の管理者のお立場として、たとえば地方にお成りになった際にも、養老、福祉施設等にお成りになりますればそこの館長さんが御先導される、まあいわば案内される、そういうようなことがございますので、どなたか環境庁の方が御案内という形でそこにお出になることは十分考えられますが、まだどなたがということは全然私ども連絡をいただいておりません。
- 野田哲
- そういたしますと、靖国神社の場合には政府の関係者はいない。そうすると先導されるというか、御案内をされるというのは靖国神社の神官の方がすべてを取り仕切ってやられると、こういうことになるわけですか。
- 政府委員
- 靖国神社の場合は、その管理を同時にやっておられる神官といいますか、神職の方がおやりになるものと考えております。
- 野田哲
- 警察庁お見えになっていますね。警察庁の方に伺いますが、今回のこの天皇の靖国、千鳥ヶ淵への参拝、当然連絡を受けておられると思うんですが、いつどこからこの連絡を受けられましたか。
- 説明員(斉藤隆)
- ただいまの御質問でございますが、連絡はすべて宮内庁から受けております。で、今回の問題は、正式な文書としては十九日付の文書をちょうだいいたしております。
以下、参拝時の警察庁の交通規制を行う計画であることを確認し、これは憲法第20条のいわゆる政教分離に反するのではないかと問い詰めます。
国会会議録検索システム「昭和50年11月20日参議院内閣委員会」
- 野田哲(参議院議員)
- 宮内庁の方で今回の場合計画をされたということですが、あなたは憲法第二十条、国及びその機関はいかなる宗教的活動も行ってはならない、こういう規定があることは承知の上でこの計画を立てられたわけですね、いかがですか、その点。
- 政府委員(富田朝彦)
- 宮内庁が、陛下のいわば私的行為につきましてもお世話を申し上げなければ、これは陛下個人でどうというわけにまいりませんので、そういう意味で、御参拝の連絡とか、あるいは御内意を伺って日程がどうとかというような事柄については、やはり私どもがやるべきことと存じております。しかしながら、それは陛下が、靖国神社なり千鳥ケ淵墓苑からの御要請といいますか、そういうことに応ぜられる手順につきまして私どもがお手伝いをしたと、こういうことだと思います。
- 野田哲
- 私的行為か公的行為かということは後でこれはまたやりたいと思うんです。
そこで、引き続いて宮内庁次長に伺いたいんですが、靖国神社のあり方をめぐっては、長年にわたって靖国神社を国家で護持するというか、国家で管理せよと、こういう運動が国民の間にある。それから、これに対して、そのことは信教の自由という民主主義の原則、憲法の二十条の精神に照らして反対をする運動も国民の間にはあるわけなんです。これが、賛否がだんだん年を経るに従って大きくエスカレートしておるし、国会の中でも与野党間で長年にわたって非常に大きな政治問題になっている。そのことをあなたは御承知ですか、いかがですか。- 政府委員
- いまお話しのように、いろいろな意見、議論があることは新聞その他を通じまして承知をいたしております。
以下、国家護持法が政教分離の原則に反するという世論によって成立を見ていないと主張し、質問者が秦豊氏に代わる。
国会会議録検索システム「昭和50年11月20日参議院内閣委員会」
- 秦豊(参議院議員)
- (前略)・・・で、先ほど野田委員から宮内庁側富田次長に対して事実関係の確認がなされたわけですが、ちょっとまだあいまいな点があろうかと思いますので、富田次長にその点だけは伺っておきたいと思いますのは、あなたは宮内庁の発議によって、責任においてあすの天皇、皇后両陛下の靖国神社参拝を取り決めたとおっしゃいましたが、その私の理解に間違いはないですね。
- 政府委員(富田朝彦)
- この発議という言葉の中身でございますが、天皇陛下の靖国神社御参拝あるいは千鳥ケ淵墓苑御参拝というものの機縁になりましたのは、これは千鳥ケ淵墓苑なりあるいは靖国神社から、今春お参りをいただきたいと。こういうことが私は発議だと思います。で、そういうことのあれを、先ほども申し上げましたようにいろいろな日程その他の都合を整理をいたしたり連絡をいたしたりするような意味での行為を私どもがとったということでございます。
以下、「私的」であると言っている天皇陛下の靖国神社参拝の段取りを宮内庁の公務として立案計画し、警察庁が交通整理に当たるのはおかしい、政教分離に反しているのではないかとして追及している。警備に私的と公的とで対応が違うのかなど云々。また、当時、天皇や総理、各省大臣、最高裁長官の公式参拝を眼目とした靖国法案(国家護持法)の審議中で、その審議にも影響を与える云々と続く。
質問者が矢田部理氏に代わり、靖国神社の性格を認識した上での参拝決定なのかということをしつこく追求し、今回の参拝の費用は何処から出るのか、警察庁への警備要請文には「私的参拝」と書かれていないではないか云々と続きます。
以上で、天皇の靖国神社参拝を巡る内閣委員会での午前のやり取りを終え、総務長官を迎えての午後の部(その2)へと続きます。