胡温への激しい砲撃

2009年09月19日

9月18日付の香港紙『苹果日報』のウィリー・ラムの論評記事をば。

胡温の任期は2012年の中共「十八大」までだが、中共の慣習である党内権力闘争は、昨日開幕した中央委員会第四回全体会議ですでに始まっている。表面的には、胡錦濤と彼の共青団派が脚光を浴び、国家主席の御用政治的演出家が、10月1日に胡総書記が天安門で閲兵式典を主宰し、いかに「21世紀の中国のトップの偉大な指導者」として超然たる地位にあるかを示そうとしている。しかし、舞台裏の派閥争いは殺し合うほどで、年内からすでに下準備は始まっており、常に血で血を洗う様相を呈している!

派閥偏向という批判からは脱しがたい

まず、「太子党」や上海閥幹部に近い者を含む非胡系の党内の高層は、団派が長期間に渡り西北部の省市の政治経済資源を独占していることに対して非常に不満を感じている。つまり新疆、チベット、青海、寧夏、そして四川に駐屯している多くの党政要員は、全て団派分子か胡総書記の腹心なのだ。新疆書記・王楽泉とチベット書記・張慶黎は、1990年代から西北に居座っている。団派が不利な状況として、昨年の3月、4月にチベットで、そしてウイグルで騒乱が発生して以降、全国の3分の1近くの領土が、どんどんと制御できなくない状態となっている。

新疆の7月5日の災禍の後、胡総書記は、イタリアから急遽帰国し、自ら数万の武装警察を動かし平定し、そして先月、更に高い調子で新疆各地を視察し、全てが正常に回復したと示したが、すぐさま漢人とウイグル族の「針刺党」の肉弾戦が発生し、更にはウルムチの住民が「王楽泉は辞めろ」と叫んだ。しかし胡総書記は相変わらず、ウルムチ市書記・栗智を取り替えただけだった。しかし、新書記・朱海侖は、新疆のベテランであり王楽泉の腹心なのだ!全党幹部の生殺与奪権を掌握している総書記として、胡総書記は「自らの友」である派閥偏向しているとの非難を免れることは非常に難しいのだ!四中全会は、中央委員会で対新疆、対チベット統治問題が胡派の難題となっているのに加えて、腐敗問題、特に高官の子弟の汚職と「商経の独占」も胡総書記への圧力となっている。

表面的には胡温の「十六大」が登場してから「虎狩り」、即ち大汚職犯討伐に力を注ぎ、更に最近は数週間おきに副部長級、あるいはそれ以上の高官が更迭されている。しかし肝心なのは、党内実権派が囲っている幹部子弟と紅頂商人が、相変わらず「尋租」し莫大な利益を得ているのだ!引退して7年になる前総理である朱鎔基が先月発表した『朱鎔基答記者問』の中で、朱に対する近年のクリーンな政治建設に関する質疑が人々の注目を集めるのも当然である。『南方日報』が先週発表した論評員の文章は、朱の反腐敗に関する一文を引用している。「退任後、全国人民に一言だけ言うことができるのは、清廉な官吏で腐敗官吏でなければ、私は非常に満足であるということだ」。この論評員は率直に「今日(朱の言葉)を再び学び、そして見聞できる社会現状と再度比べると、その中に含んでいる強烈な現実的な意義を何か感じることができないだろうか?」と記している。

胡温政策が砲撃される

当然、老朱の胡温政策に対する批評は、清廉な政治においてだけではない。かつて中国経済を「朱沙皇」として主宰した彼は、彼の弟子であった温家宝の財政金融問題に対する優柔不断な対処に納得がいかず、中央が大量な資金を市場救済に投入しているが、その利益は特権的な国有企業が得、投機的売買にとって都合のよい情報を利用し不動産は大復活し、尚且つ北京は地方諸侯が国家のインフラ建設プロジェクトの借款の横領を阻止することができないことをも含んでいる。注目に値すべき点は、朱内閣の副総理であった曾培炎もまた最近非常に活発となり、「最も権威あるシンクタンク」である国際経済交流センターの理事長となったことだ。北京の消息筋は、曾培炎などの上海閥の「遺臣」たちは中央委員と連帯し、四中全会において胡温の経済政策に砲撃を加え、これからが本番だと言う。

新世紀新聞網「林和立:中共四中全会胡錦涛備受圧力(苹果日報)

政策というより根本的な問題はシステムだと思うのですが、まーどうでもいい。

ここ最近は「和諧だ」、「調和だ!」なんて悠長なことを言っている余裕がなくなったようで、「安定だ!」、「団結だ!」、「党再建だ!」と内向きに叫んでおり、その危機感はヒシヒシと伝わってまいります。

また、ウルムチでの通り魔事件取材に絡み香港人記者が拘束、暴行されたことに香港の左派が反発(これ自体も政争臭い)していますが、日本の記者も湖北省、そして北京で当局に拘束、暴行される事件が発生しており、上記のような熾烈な権力闘争の影響なのか、還暦国慶節が近いためなのか、社会全体が不穏な空気で満たされているためなのか、全土で当局が相当ピリピリしているようで、訪れる方は今まで以上に注意された方がよさそうです。

もうひとつ18日付の『苹果日報』より。

ここ数ヶ月、中共最高指導層の共青団系統と太子党との間の権力闘争が、どんどんと白熱し、双方共に表面上の和諧と団結をも無視し、更には境外にまでその戦場を伸ばし、尚且つ太子党が攻勢で、”団派”が守勢を余儀なくされ、このような情景はあまり見られないことだ。

胡錦濤の”団派”は、江沢民、曽慶紅の太子党と長年、明に暗に闘争を繰り返してきたが、これまでは”アヒルの水かき”――つまり水面下での戦いで、水面上は平静で、外部からは些細な動きが見えるだけだった。しかし、今回は、双方の陣営の状況をはっきりと見ることができる。

第一の戦場は重慶だ。重慶市委員会書記・薄煕来は太子党の実力者で、最近重慶で”揚紅マフィア討伐”運動を行った。”揚紅”とは、毛沢東語録のフレーズを広め、紅歌歌謡大会や紅色故事弁論大会を開いたりなど、毛沢東思想を宣伝することだ。”マフィア一掃”では、マフィア社会に打撃を与え、一夜のうちに、重慶市は数百人のマフィアの構成員を引きずり出し、多くの豪商、人民代表、更には重慶公安システムを長年に渡り支配していた前副局長・文強ら、黒社会が一掃された。

”揚紅”は、もちろん薄煕来の政治的資本を重ねるもので、”マフィア一掃”の標的は”団派”のリーダー格である広東省委員会書記・汪洋である。汪洋は、2007年末に重慶を離れる前に、重慶を2年間統治し、マフィア撲滅を行わず、文強を重用していたが、薄書記は就任して1年ほどで、多くの黒社会を捕らえ、その追及の手は文強ら”黒汚職官僚”まで伸び、明らかに汪洋を貶めることではなかろうか。広東のメディアが重慶のマフィア一掃をあまり伝えないのも当然のことで、広東のネットユーザーは、香港のテレビが重慶のマフィア一掃のニュースや論評を報じる際には、全て他の内容に差し替えられていると指摘している。

中南海の後ろ盾のない太子党、薄煕来が、どうして直接汪洋を攻撃できるのだろうか?もしかすると、江系の人物と見られていた深セン市長・許宗衡が中央規律委員会の双規を受けてから、太子党は報復しようと機会を伺っていたのかも知れない。

双方のもうひとつの戦いは新疆だ。筆者は火曜日、「左派挺記者の舞台裏」という一文を発表し、香港の左派グループは、香港記者を支持すると表明し、一致して、その矛先を新疆当局に合わせ、一斉に公然と中央に事件の徹底調査を要求し、その目的は”団派”の新疆党委員会書記・王楽泉を辱めるためだ。彼らの背後には、明らかに見えない手があり、香港とマカオの事務は太子党の習近平が担っているのだ。

ここ数ヶ月、王楽泉は党内外から砲撃を受け、更には胡錦濤が自ら新疆の支援を示したが、彼らの前足は新疆から離れ、ウルムチの漢人は街頭で”王楽泉は辞めろ”と叫び、胡錦濤も巻き添えを食った。一昨日、胡錦涛の愛将の一人である、宗教事務局長・叶小文が、閑職である中央社会主義学院党組書記に転任し、先日ダライが台湾を訪れた際に、強硬さに欠けたのは、新疆の民族問題が自分の身の上に降りかかった為かもしれない。80年代に胡錦濤が貴州省委員会書記であったときに、叶は共青団の貴州省委員会書記であった。

これらのことを見ると、太子党の攻勢が凄まじく、”団派”はただ耐えるだけのようだ。過去20年、このような劣勢で、悲惨な包囲攻撃に晒されている党総書記は珍しい。この種の権力闘争、そして本日閉幕した四中全会は前哨戦で、2012年の中共十八大への序章だろうか?

新世紀新聞網「中共高層近期権斗:太子党主攻、“団派”取守勢(苹果日報)

習近平が、慣例を破り四中全会で軍事委員会副主席に任命されなかったことも、一部では国慶節に合わせて発表するためとの声もありますが、上記のような権力闘争が影響しているのですかね。前回の江沢民〜胡錦濤の流れを知らないので、今回の政争が上述のように異例であるのかどうかはわかりませんが、中国の置かれている経済を含めた状況が大きく違いますし、今まで以上に中央への風当たりが強いのは確かでしょうし、中央の調整力が低下していることを示す出来事の一つなのかも知れません。

汪洋(広東)と薄煕来(重慶)は、農民工の受け入れ先と供給源という関係から利害対立しやすい状況であるということが、まずあるかと思います。金融危機が勃発し輸出産業が壊滅したことで、より対立が生じやすい状況となっていました。

ところで王楽泉は曽慶紅に近く反胡錦濤(反中央)であるという認識は間違いなんですかね。

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新華網「授權發布:中國共産黨第十七屆中央委員會第四次全體會議公報
新華網「人民日報社論:永遠不辜負人民的信任和期望
明報「習近平任軍委副主席 四中全會通過
朝日新聞「「ポスト胡」人事は先送りか 中国共産党4中全会閉幕
MSN産経ニュース「習近平氏 軍事委副主席に選出されず 4中総会

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posted by タソガレ at 16:57 | Comment(2) | TrackBack(1) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
こんにちは。ごぶさたしています。
産経は「選出されず」と報道していますが、ちゃんと裏がとれているのか疑問です。
関連記事で紹介されている『明報」の記事でも
>大會原則通過摯笞家副主席習近平 為中共中央軍委副主席
>確定接班地位 消息或閱兵後公布
とあるように大会で決定された習の昇格はまだ公式発表されていないというこでがないでしょうか?
関連の弊記事TBさせていただきます。
Posted by 丸山光三 at 2009年09月19日 18:29
ご無沙汰しております。

明報は十七大の時に人事予想をほぼ的中させていたように記憶します。
中央に太いパイプがあるのでしょうね。
色々な報道を眺めると習近平の軍事副主席就任は間違いないようで、その上で慣例を破った点を取り上げて様々な憶測が飛び交っているようですね。

トラックバックありがとうございます。
「習近平」、そして「異端思想の系譜」を興味深く読ませていただきました。
大変勉強になります。

無学の魅力・習近平の対極にいるのが薄煕来でしょうか。
大紀元を眺めすぎなのか、薄煕来のイメージがよくないのです。

中国から離れますが、「異端思想の系譜」を読ませていただき、共産主義正統からの「中国国民党左派」に対して攻撃を仕掛けているのが我等が「正統」朝鮮であると北朝鮮指導部は捉え、それが一連の暴走を担う一端となっているのかなぁ、なんてことがふと頭に浮かびました。
Posted by タソガレ at 2009年09月23日 13:57
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習近平の軍事委員会副主席就任と中共異端思想を考える

Excerpt: さてこれまで習近平と中共異端思想を平行してエントリーしてきたが、本来ならこの二つを総括する「まとめ」を書こうと思っていた。 【中共異端思想の系譜】その1、異端とは で以下のように述べておいたことをご記..
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