中国における愛国心教育

2006年05月21日

教育基本法改正で愛国心を法案に盛り込むか盛り込まないか、その表現などを巡って喧々諤々されていて新聞やテレビでも「愛国心」の文字をよく見ます。15日に放送されたTVタックルの番組でも愛国心が取り上げられていました。そこでこの番組内で出て来た中国の愛国教育を規定している法規、「愛国主義教育実施要項」と「中華人民共和国教育法」を覗いてみました。

当日の番組の内容は、ぼやきくっくりさんが「「TVタックル」韓国竹島地図改ざん、拉致、愛国心」で主要な箇所をテキストに起こされています。動画もネット上を検索すれば見つかると思います。

まずは、「愛国主義教育実施要綱」から。この要綱は中共中央が1994年8月23日公布即日実施されたものです。

簡単に制定当時の歴史的背景を振り返ってみます。1979年にトウ小平によって始められた改革開放が、1989年の天安門事件、1991年のソ連崩壊で頓挫し、世界から孤立し経済的窮地に陥り中共が急速に求心力を失います。危機感を強めた中共中央では保守派(左派)が台頭し改革開放にブレーキがかかります。この動きに対して1992年にトウ小平自ら広東省の深センや珠海、上海、武漢を訪れ改革開放を促進させるべく重要講話を行います(南巡講話)。このような中で中共の求心力を高める(維持する)為に制定されたのがこの「愛国主義教育実施要綱」です。俗に言われている「反日教育」強化が進められたわけです。

この愛国主義教育は一定の効果を発揮したわけですが、その副作用が噴出し中共自身が制御できなくなったのが昨年の一連の反日暴動です。次の求心力を模索しているようですが、これがなかなか見つからないようで、胡錦涛は改革開放を引き締めにかかっています。これに対しての反感が上海閥を筆頭に出てきているのが現在の状況です。「政権維持の担保を何に求めるのか?」これが中共中央にとっての今後の課題であり、注目点であります。民主に求めるか、力(軍事力・規制)に求めるのか、それとも第3の方法に求めるのか。何を選択するのかの分岐点に差し掛かっているわけです。

話が逸れましたが、「愛国主義教育実施要綱」を眺めてみます。読めばわかりますが、恐ろしいほどに選民思想、中華思想丸出しです。

愛国主義教育実施要綱

中華民族は、愛国主義の栄光と伝統を豊富に有している偉大な民族である。愛国主義を動員し中国人民が錦の御旗の元に一致団結し我が国が社会歴史の中で強力な力によって推進することを鼓舞し、これは各民族の人々共通の精神的支柱である。現在、我が国人民は、中国の特色ある社会主義理念と党の基本路線の指導の下で社会主義市場経済を大いに発展させ、富強、民主、文明的社会主義現代国家の建設に努めている。新しい歴史の下、愛国主義の伝統を継承し発揚させ、民族精神を奮起において、全民族の力量を凝縮し、全国各民族人民が団結し、自力更生、苦難を乗り越え、中華民族の振興の為に奮闘することは、十分重要な現実的意義を有している。各級党委員と人民政府は、この点を高度に重視して仕事を行わなければならず、各自の仕事を常に愛国教育を積極的に展開することに結びつけなければならない。

一.愛国主義教育の基本原則

1.愛国主義教育は、トウ小平同志の建設した中国の特色ある社会主義理念と党の指導の為の基本路線が必須であり、社会主義の現代化建設を促進させることが必須で、改革開放を促進させることが必須で、国家と民族の名声、尊厳、団結と利益を維持することが必須で、祖国統一事業を促進させることが必須である。

2.愛国主義教育を展開する目的は、民族精神を振興するもので民族を団結させ増強し、民族の自尊心と誇りを樹立し、広範に愛国統一戦線を強化発展させ、人民群集の愛国的情熱を引き出して凝縮し中国の特色ある社会主義という偉大な事業を完成させ、導き凝縮することによって祖国統一、繁栄と富強に貢献し、理想と道徳、文化、社会主義公民としての規律を有して四つの近代化を実現させ、中華的共同理想団結を奮闘することにある。

(中略)

4.愛国主義教育は、対外開放の原則を堅持しなければならない。愛国主義は、決して偏狭な民族主義ではなく、我々は中華民族の優秀な成果を継承し発揚し、資本主義を含む先進国が創造したすべての文明的成果を世界各国から学び吸収することである。また、中国人民の才能と各国人民が一緒になり、世界平和の促進と人類の進歩への貢献することである。

5.愛国主義教育とは、時代の特徴を突出させなければならない。愛国主義とは一つの歴史の範疇であり、社会発展の段階によって異なり、時期によって異なり、内包されるものも異なる。現在の中国において愛国主義と社会主義の本質は一致しており、中国の特色ある社会主義建設は新しい時代の愛国主義の主題である。トウ小平同志は「中国人民は己の民族的自尊心と誇りを有し、祖国を熱愛し、社会主義である祖国を建設することに全力量を以って貢献することは最大の光栄であり、社会主義である祖国の利益を損ねることは、尊厳と栄誉に対する最大の恥辱である。」と指摘している。これは我が国が現男系の愛国主義の特性を最もよく総括したものである。愛国主義とは、集団主義と社会主義思想の教育三位一体であり、中国の特色ある社会主義の偉大な実践の中で建設された有機的な統一見地である。

二.愛国主義教育の主要内容

6.愛国主義教育の素材は非常に広範にわたる。歴史から現在まで、物質文明から精神文明まで、自然風景から物質資源まで、社会生活の各領域すべてに豊富に愛国主義教育を進行する宝の塊は潜在している。国情資料うまく運用することが必要で、併せて絶えることなく豊かな愛国教育の内容を有した各種の教育資源の宝石を注意深く掘り起こし利用しなければならない。

7.中華民族の悠久の歴史教育を行わなければならない。我が国人民の愛国主義精神は、中華民族の非常に長い歴史の過程の中から生まれ発展するのである。中国の歴史、特に近現代史の教育を通じて、中華民族がたゆまず未来へ向かって努力している姿勢、不屈の発展の過程を理解させ、我が国の各民族人民の人類文明に対する卓越した貢献を理解させ、我が国の歴史上重大な事件と著名人を理解させ、中国人民が外からの侵略と圧迫に反対したことを理解させ、腐敗統治に抵抗し民族独立と解放を奪い取り、先の者に続き、血を浴びる奮闘の精神と業績、特に中国共産党が指導した新中国設立の為の英雄奮闘の崇高な精神と光輝な業績を理解させなければならない。

8.中華民族の優秀な伝統文化を教育しなければならない。中華民族は光り輝く中華文明を創造する過程の中で、強大な生命力を持った伝統文化を具現化し、その内容は博大精深で哲学だけでなく社会科学、文学芸術、科学技術などの方面も成就しており、すべてに崇高な民族精神、民族的気骨が含まれている。無数の傑出した政治家だけでなく、思想家、文芸家、科学者、教育者、、軍事家、更に豊富な文物史跡、経典著作、これら数々の文化的遺産は、愛国主義教育の得難い資源である。正確に祖国の言語文字用いて共通語によって強く広めていかなければならない。

(中略)

12.国防教育と国家安全教育を進めなければならない。新しい時代の特徴に合わせて、現代国防教育を重視し全人民に国防意識と国家安全意識とを増強させ、軍政を強め、軍民団結、全人民で外からの進入に抵抗し、祖国の独立を守り、国家の主権と領土及び完璧な自主性を維持しなければならない。全人民を教育することは、祖国の利益を売ったり、祖国の尊厳を損なったり、国家の安全に危害を加えたり、祖国分裂的な言動と断固として闘争することと同じである。

13.民族団結教育を行わなければならない。中華民族は、一つの多民族的大家族であり、内地であろうと辺境であろと、漢族地域であろうと少数民族地域であろうと、すべてマルクス思想主義の民族観、宗教観と党の民族政策、宗教政策教育を以って、各民族人民の団結と祖国統一へのたゆまぬ努力と貢献の歴史を大きく宣伝しなければならない。各民族人民の中に漢族は少数民族から離れられない、少数民族は漢族から離れられないという思想を強固に樹立しなければならない。

14.”平和統一、一国二制度”方針の教育。全面的に正確に党と政府の祖国統一問題に対する基本的立場と方針政策を宣伝し、祖国統一工作の進捗状況と重点を理解させなければならない。香港・マカオ・台湾同胞が祖国統一の為の貢献を注意して宣伝し、外国同胞と海外愛国帰国者や愛国事業を宣伝しなければならない。

(中略)

16.学校は、青少年に対して教育を行う重要な場所である。愛国主義教育は、幼稚園から大学まで教育全過程で一貫して行われなければならず、特に教室での授業でうまく作用させなければならない。・・・(以下略)

(中略:以下、地域社会、職場、婦人会などあらゆる階層のあらゆる組織、中央宣伝部の指導のもとテレビ、雑誌などあらゆるメディアでも愛国主義教育を行えと続く)

四.愛国主義教育の拠点をしっかりと建設する

各種博物館、紀念館、烈士紀念建築物、革命戦争中の重要戦役、戦闘紀念施設、文化財保護部門、歴史遺跡、景勝地と我が国の2つの文明建設の重大な建設過程の成果、先進的な都市と農村は愛国主義教育の重要な場所である。各級党委員会宣伝部は、当地委員と人民政府の要求に従わなければならず、教育部門、共青団組織と文化、文物、民政、庭園などの部門は、いくつかの教育拠点を確保しなければならない。都市農村の下部組織や共青団組織は、基地を積極的に利用して教育活動を展開しなければならない。学校は、これらの教育活動を道徳の授業として計画し取り入れなければならない。

(中略:以下、生活のあらゆるレベル、あらゆる社会的施設すべてを愛国主義教育の為に建設し利用しなければならないと続く)

五.愛国主義教育の社会的雰囲気を創造する

26.愛国主義思想形成の為に社会の主旋律とならしめ、社会日常生活各方面において一種の熱狂的な愛国主義的雰囲気を創造しなければならず、いつでもどこでも愛国主義思想と精神的感染と薫陶を受けることができるようにしなければならない。現代的な伝播手段を運用し愛国主義教育を民衆に対して浸透させ、つまり各新聞出版や映画テレビ部門は非常に重い職務である。・・・(以下略)

(以下略:以下、あらゆる宣伝媒体を使って愛国主義教育を喧伝しなければならない。“五四”、“6・1”、“七一”、“八一”などの記念日も愛国主義を高揚させる為に利用しなければならないと続く)

愛国主義教育の指導者を強化する

(中略)

39.外交部、華僑関連組織、対外宣伝部門と香港、マカオ、台湾事務工作部門の主管は、海外同胞や香港、マカオ、台湾同胞、その他の海外に居留してる中国公民に祖国建設の成就に関する国家政策、民族歴史文化の優秀な文芸作品や文学、写真資料と録音、録画資料を提供し彼らの祖国への関心と祖国への熱烈な愛を鼓舞し導かなければならない。

(以下略)
新華社「 中共中央関于印発《愛国主義教育実施綱要》的通知

主要な部分だけを抜き出そうと思ったのですが、ついついダラダラとたくさん抜き出してしまいました。もー、あらゆるものを動員して愛国主義教育の為に利用し愛国主義教育を施せと言っているのがわかりますね。空気までも愛国主義教育に利用しろと言わんばかりの勢いです。

気がついた箇所を箇条書きにしてみます。

  1. 漢族を含む少数民族全体に「中華民族」というアイデンティティを持たそうとしている
  2. その為に「中華民族」がいかに優れた民族であるかを謳いあげている
  3. 分裂を防ぎ台湾を含む統一を成し遂げるためである
  4. トウ小平を賛美している
  5. 歴史教育、特に現代史に力点が置かれている
  6. そして、共産党がいかに血を流し偉大な貢献を行ったかを謳いあげることの必要性を説いている
  7. 共通語と漢字の普及を推奨している(分裂防止統一推進)
  8. 軍に対する忠誠と国防意識高揚
  9. あらゆる手段あらゆる場所あらゆる物を動員して愛国主義教育を行え
  10. 中国内だけでなく在外同胞に対しても同じことを行わなければならない

目的は、「分裂防止統一促進」と「共産党(軍)の支配の正統性の徹底」ですね。5、6、あたりが反日教育に繋がっていくわけです。また、愛国主義教育は中国国内に留まらず在外中国人にまでその適応範囲となっています。日本では、王毅が先頭に立ってこれを行っているわけです。

上記に挙げた「愛国主義教育実施要綱」に基づいて愛国主義教育を徹底させるためにおよそ2ヵ月半後の1994年11月15日に国家旅遊局(観光局)が「全国旅游行業貫徹愛国主義教育実施綱要細則」というものを発布しています。

つづく・・・。



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posted by タソガレ at 22:10 | Comment(5) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
中国の留学生は中共が国内で行っていることを知っている、たとえば政府高官の不正、農民に対する政府の違法な土地収用、法輪功信者への拷問、チベットでの虐殺。日本、アメリカのような自由主義、法治主義国家で学んで帰国した場合、中共政府の矛盾にきづかないのかな?それとも日本のマスコミ、議員のように知らん振りをきめこむのかな?

中共は留学生を本国でどのように処遇しているのだろう?子供のときから中共の教えが刷り込まれているから、帰国と同時にタイムスリップし元に戻るのかな?
この留学生に期待し、民主主義の道を歩むことを願う。
昨日、農民が役立たずのアナンに中共の不正を訴えたという記事を読んだ。本当に農民が気の毒でならない。かわいそうで涙がでる。

日本の政治家、マスコミは中国の人権を外交に使い、中共を正して欲しい。王毅は、自国民が苦しんでいるのをなんととも思わないのだろう。人間ではない。マスコミには彼にこの点について質問して、彼の見解を聞いて欲しいものだ。
Posted by 留学生 at 2006年05月22日 00:25
どうもご無沙汰しています。

最近、愛国教育と歴史教育との関連で、日中友好アピールの変化に興味を持っています。

90年代以前の中国は、日中友好を盛り上げるために、空海などの留学僧や遣唐使の活躍などを盛んに持ち出していたように思います。その場合「日本と中国は一衣帯水」とか「長い歴史で対立したのは近代のごく短い期間だけ」とか「同文同種」という言葉が頻繁に語られました。

反日暴動直前には、日本と中国の文化的・民族的つながりの深さを強調するものが目立ちました。

ところが、反日暴動後は、徐福は神武天皇だとか、「漢倭奴国王」は漢直属の奴隷国家の証だとか、卑弥呼は天照大神だが、「自称」終始一貫独立国家のプライドが邪魔してその事を認めない・・などといった若干見「下し系」の資料や掲示板の書き込みが増えてきたように思います。それから、天照は太陽女神ですが、中国の炎帝も太陽神です。「炎帝は原始母系社会の一首領だった」とかいう説明さえ目にしました。(もちろん、井真成を突如持ち出して「友好」をアピールする事もやっています。)


政治による歴史の有効活用(?)を見せ付けられているようです。(日本もそういう場合がありますが、こちらは民主主義ですから・・)
Posted by a Jap at 2006年05月22日 10:59
留学生さん、こんばんは。
中国の留学生と触れる機会は何度かあったのですが、政治的に突っ込んだ話をしたことがないのでよくわかりません。一度、天安門事件について少し話したことがあるのですが、中共が許せないとは言っていました。ちなみに彼は漢族ではありませんでした。

今日ドイツのメルケルが温家宝と北京で会談し共同記者会見を開きました。その記者会見の場でメルケルははっきりと「中国の人権問題について話をした」と発言しています。また、時間がない中時間を作り、発禁処分を受けている『中国農民調査』の著者とも面会していたりします。
靖国如きで右往左往しているようでは、このような外交は出来ないでしょうね。

a Japさん、ご無沙汰しております。
日中友好アピールの変化、なかなか興味深いですね。
利用できるものは恥も外聞もなく大声で細かいことは気にせずに利用するという厚顔無恥が中共の強みですね。南沙で漢代の遺跡とやらが見つかったから我が領土と主張したとかしないとか。こんな国とは対話なんぞできませんね。
Posted by aki at 2006年05月23日 00:01
これのシナと書いてる部分を、日本に置き換えて提出したらサヨクはどう反対するんでしょw
Posted by よもぎ at 2006年05月23日 21:25
よもぎさん、こんばんは。
悶絶して気絶するんじゃないでしょうか。
Posted by aki at 2006年05月24日 23:50
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