「中共からの脱出、17歳の尼僧1人が死亡 3」の続報というわけではないのですが、「チベット人権民主センター」や「中国人権」の非難声明の中に出てくる「チベット人らの襲撃に遭い正当防衛である」と記されているとする新華社の記事を探していて偶然見つけた記事を紹介してみます。
時系列を整理しておきます。9月30日に中共から逃れようとネパールを目指していたチベット人一行が中共国境警備隊に狙撃され、少なくとも1人が殺害されました。多くの目撃者の証言などを受けて、10月13日に「チベット人権民主センター」や「中国人権」が非難声明を出します。このような情況の下、これから紹介する新華社の記事は10月15日に報じられたものです。
チベット公安国境警備本部シガツェ分遣隊蘭巴拉工作駅長・晏啓権は、数日前、国家人事部、公安部より”国家特級優秀人民警官”の栄誉ある称号を授与された。
晏啓権は、1991年12月に入隊し、海抜最高積雪地域の国境警備という最も苦しい条件の下で闘い続け、密航と各種違法犯罪者と闘争を行い、自ら捕縛した密航指揮分子、違法犯罪者は400人あまりに達し、各種反動的宣伝印刷物を押収すること800件あまり、かつて”全国密輸犯逮捕先進的人”に選ばれ相前後して二等功績1回、三頭功績2回獲得しチベット族らに”ガーマ(チベット語で天上の星星の意)”と呼ばれ親しまれている。
新華社「辺防武警獲“全国特級優秀人民警察”」
今回事件が起こったのは「International Campaign for Tibet」などの記事によるとCho Oyu山の2、3キロ西にあるNangpa Pass(Nangpa la)という場所であると記されています。これらの情報からGoogle Earthで大体の場所を特定することができました。左奥(東南)に見える山がCho Oyu山(80,201m)です。「ABCベースキャンプから多く目撃された」とあるABCベースキャンプも近くにあるので、この辺りでほぼ間違いないと思います。黄色いラインは中国とネパールの国境線です。手前が中国領、向こう側がネパール領です。

Google Earth「28.1205695561,86.6010136023」
「Nangpa la」とポイントを置いているところで標高が5,700mです。このような箇所を14人の子供(最年少5歳)を引き連れてネパールを目指して歩いていたのです。
上記で紹介した「国家特級優秀人民警官」を受賞したのは「シガツェ分遣隊蘭巴拉工作駅長」とあります。シガツェ(29.2706819963,88.8803480642)はチベット第2の都市で、ラサとネパールのカトマンズとの道中に位置しています。蘭巴拉は、NanPalaというところまでわかったのですが場所を特定するところまではいけませんでした。蘭巴拉(NanPala)と「Nangpa la」は同一ではないかと思ったのですが、「Nangpa la」は中国語表記では「朗喀巴」となるようで別地名で、晏啓権と今回の件を結びつけるようなものを発見することはできませんでした。
ただ、13日に批判声明が出された2日後に新華社がチベット国境警備隊員が表彰されていたことを報じる。これほど明らかな挑発行為はないでしょ。こんな国でオリンピックとは・・。
表彰されたと報じられている晏啓権なるおっさんは、結構有名人のようで今年の7月に”十大警官”の候補者としてCCTVのインタビューを受けて出演したりしているようです(「十大警察蘭巴拉辺防站站長晏啓権采訪手記」)。
また、彼の武勇伝を「蘭巴拉守護神」と題して報じている記事もありました。その箇所を大雑把に要約して以下に引用してみます。
2005年9月25日、晏啓権は上級より蘭巴拉からネパールへ密出国するかもしれない密航分子40数人がいるとの通達を受け取った。重大事件だ。晏啓権は、迅速に伏兵を配置して行動を開始した。
伏兵を配置する場所は、密航分子のルートである、海抜6,100mの巴弄卓[ga]だ。巴弄卓[ga]は、複雑な地形で周囲数十キロは人家がなく、でこぼこな地形が広がっていて密航分子にとっては最適な自然の障害となっている。晏啓権率いる70人の戦士は4つのグループに分かれて1時間ほどテントの中で息を潜めていたが消息がない。
晏啓権は、以前に密航分子を捕まえたときの経験から、彼らは晩の1時、4時、6時に行動を開始することが多いことを知っていた。
密航分子も狡猾で、戦士たちが最も疲れることを見計らって出国を図るのだ。風雪がやってきてテント内の気温も零下数十度℃にまでなり、次第に高山病から嘔吐するものまで出始めた。晏啓権も涙を浮かべつつも検問を行っている戦士たちを励まし続けた。
晏啓権が励まし続けて3日目の2005年9月27日の彼が予想した通りの時間である明け方の6時に、密航分子らは動き出した。晏啓権は捕縛命令を出した。
戦士らは、海抜6,000m以上の地で走り回ったこともあり、息が上がりあちらこちらで嘔吐していた。
西藏―日喀則「蘭巴拉守護神: 晏啓権」
今回の事件を指揮したのも、こいつじゃないのか。
ちなみに今回の事件を受けて、駐中アメリカ大使が12日に中国外交部に対してチベット難民を適切に処理するようにと正式に抗議しています。
- 参照
- Google Earth Community「Tibet」
- VOA「美国正式抗議中国軍人射殺西藏人」
- 人民日報英語版「Stowaway case thwarted in Tibet」
中共政府はチベット人が抵抗したため正当防衛行動に出ただけであるとの見解を発表しています。 - 外部関連記事
- 東アジア黙示録「13歳のチベット少年狙った…中共の非道あかす目撃証言」
「中共からの脱出、17歳の尼僧1人が死亡 3」で紹介した果科さんが翻訳してくださったルーマニアのテレビ局のニュース映像の英語バージョンがYouTubに上がっていました。
【追記】日本語字幕バージョンがあったので差し替えておきます。
先頭と最後尾の人間が撃たれても隊列を乱すことなく歩き続ける姿に彼らの覚悟の程が伺えますね。
このニュースの冒頭の映像を見て思い出したのが『シンドラーのリスト』という映画。ユダヤ人収容所の所長が目覚めのコーヒーを飲みながらおもむろにライフルを構え、眼下ですでに作業を行っている囚人に照準を合わせ「パスッ」と1発。表情一つ変えずコーヒーを飲む。確かこんなシーンだったと思う。
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下記で”解放”前のチベットの映像を多く見ることができます(英語:「Tibet The Story Of A Tragedy(55:43)」)。
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>> 歩き続ける姿に彼らの覚悟の程が伺えますね。
そうなんです。そこがすごく気になる。もし中国軍に発見されて、撃たれた場合はどうするか、事前にちゃんと話し合って決めていたとしか思えません。
通常、夜にこっそりと越えていくべきところを、わざわざ日のあるうちに敢行したのは、やはり子供が一緒だからではないか、という推測をしている報道もありましたが。
銃弾を受けて誰かが倒れたとしても、大勢の外国人登山家の目撃者を作り出すことができる、と考えての行動だとしたら、それはそれで悲壮すぎます。
当方のiza版に「日曜日昼のテレ朝系ANNニュースで問題の映像を含め、報道された」との知らせを受けました。自分も「テレ朝」サイトで確認しました。(既に記事は消失。NY発と見られます)
また、チベット亡命政府=CTAの公式サイトでも17日12時付けで同事件に関する非難が発表されました。
http://www.tibet.net/en/flash/2006/1006/171006.html
また、果科さまに、この場をお借りしまして御礼を申し上げます。先だっての僭越なお願い、失礼致しました。
この映像が示唆するものは、中朝国境における脱北者への対処ではないかとも考える次第です。
振り返りもせず黙々と歩き続ける姿には震えますね。
アネモネさん、こんばんは。
紹介くださったチベット亡命政府の記事、インドへ亡命するチベット人の3分の1が14歳未満の子供たちとありますね・・。
罪も無い子供を殺すとは、本当に痛ましい事件です。
チベットの子供を安全にインドへ亡命させるために、国際的に何かできないでしょうか?これを認めないとオリンピックやらせないとか恫喝してでも。。。
リチャードギァがチベット問題に熱心なので今回も声明を出して国際的大問題にして欲しいです。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/829117.html
http://2ch.net/
ねらーがどう動くか生暖かく見守りたく思い。
アネモネさん。
ANNが取り上げたんですか。ほぉほぉ。新華社の通訳がねぇ。視聴率の低いところで流しておいて、アリバイだけ作ったんじゃないのかしら。
http://www.youtube.com/watch?v=tNnA3K_kCEc
メディアや地元選出の国会議員などにメールや電話してもいいかも知れません。
現在はどうかわかりませんが、去年の10月に民主党の枝野幸男さんが「チベット問題を考える議員連盟」の代表となっています。
http://www.tibethouse.jp/news_release/2005/051014_giren.html
彼にメールをしてみるとか。
http://www.edano.gr.jp/
下記から簡単に意見することができるようです。
http://www.edano.gr.jp/access1.html
私も先ほど投下してみました。
> 果科さん
あら、2chが動いたのですか。
何らかの大きな流れになると面白いですね。
日本語字幕ヴァージョンが素早く作られたりと2chのフットワークの軽さは凄いですね。
チベット人の女性は、中国政府により子供が生めないようにされ、中国共産党によりチベット人の粛清が着々と進められています。
僧は、拷問により殺されていますが、その数は何万人になるのでしょう。
僧の逮捕理由は、言いがかりだけです。
胡錦涛は、ヒットラー以上の殺人鬼です。
このままにすれば、チベットの大切な文化遺産が、この大地から消えてしまう。これは、人類の損失です。なぜなら、チベット密教は、幸せの方程式を説くものであるから。
ちなみに、枝野幸雄代議士もいいですが、中川昭一代議士とか、元代議士の米田先生などの方が、力になってくれる気がします。
ただ、日本には中国に頭の上がらない政治家や財界人が多く、深い問題であるにもかかわらず、改善されません。
何とか、日本を世界を動かしたいものです。
確か、昨年でしたでしょうか。死刑を求刑されたチベット人僧侶の減刑運動が大きく行われていたにも関わらず日本ではサッパリでしたね。昨今の北朝鮮を巡る中国の姿勢に関する報道などと合わせて日本のマスコミの報道姿勢には辟易です。
紹介くださった米田先生とは米田健三氏のことでしょうか?
http://www.yoneda.ne.jp/
2002年の内閣府副大臣時代にダライ・ラマと会見した人物なのですね。
http://www.tibethouse.jp/news_release/2002/021111_china.html
11月10日に東京の両国国技館でダライ・ラマの講演会が行われます。お近くの方はどうぞ。
http://www.tibethouse.jp/dalai_lama/2006japan/index.html
まだ、自由席に余裕があるようです。(チケットぴあ)
http://ap0.pia.co.jp/pia/et/onsale/ons_perform_list_et.jsp?ons_search_mode=ON&ONS_COL_SHEET_NO=153385&P_CODE=607947
射撃を受けたチベット人が無事インドにたどり着いて記者会見を開きました。7人の子供を含むニ十数人のチベット人が中共にとらえられたままです。
http://www.lemonde.fr/web/video/0,47-0@2-3216,54-827325@51-827336,0.html (動画)
シラク大統領が4日間の予定で訪中してます。今回の訪中の第一目標は契約書に調印させて注文をとること。核問題、人権問題は二の次のようです。したがって下院議員から要望のあったチベット人射撃事件について胡錦涛に抗議することは避けたいところでしょう。そこで訪中の前日大統領府の対中方針としてルモンドが報じてます。個人やチベット人の人権のように普遍的な問題については、公然とは言わないが言葉を選んではっきり言う必要がある。しかしチベット人や中国人の人権侵害については各協会やNGOにまかせる。当然中共はこの記事を読んでるわけだから、フランスの意図は十分、公然と伝わるでしょう。国益に向けて政府ー野党と主要メデァの見事な連係プレーと思いませんか。実も花も取る老獪な外交を日本も見習って欲しいところです。
事実ミッション初日から、新幹線車両500台(フランス製産110台を含む)、26日にはエアバス航空機150機の契約書にサインしてます。核施設、携帯用飲料水工場建設等残りの契約についても明日以降調印が予定されてます。
天安門広場で行われた歓迎式典で胡錦涛が出席してました。安倍さんのときは温家ほう。日本を格下扱いしてるのでしょうか?
情報ありがとうございます。
シラク大統領の訪中、ちょっと臭いですね。胡錦涛との会談に国防科工委員主任・張雲川なる人物が列席していました。
どのようなポストなのかよく知らないので調べてみようとは思っているのですが、宇宙開発での合意事項もあったようですし、EUの対中武器禁輸処置の網の目をくぐって、などと企んでいるのかもなどと推測。
フランスとロシアの距離感とあいまってひじょーに胡散臭い。
すでに求心力が低下しているとは言え、なんとなく嫌な感じです。
胡錦涛が歓迎式典に出てきたのは、シラクが大統領でフランスの元首だからでしょう。
日本の元首は明確な規定はないようですが天皇陛下。首相は行政府のトップ。中国の行政府のトップは温家宝。ドイツのメルケル”首相”も温家宝が歓迎式典を仕切っていました。
日本を格下扱いしたわけではないです。
歓迎式典を行わない事務訪問扱いとした場合は格下扱いと言っていいかも。5年前の小泉さんがそうでしたし、つい最近の盧武鉉”大統領”がそうでした。